綱引きの大国、冷めた握手、世界巻き込み薄氷外交 諸国連携を急ぐバイデン政権、米包囲網に抗う習近平
2024年5月1日
ブリンケン米国務長官が中国の習近平 (しゅう・きんぺい) 国家主席、王毅 (おう・き) 外相と北京で相次ぎ会談し、関係安定化を図った。
握手の裏で、バイデン政権は対中警戒感を背景に日本や欧州、フィリピンなどとの連携を急ぐ。
習指導部は米主導の包囲網の切り崩しに躍起。
世界各国を自陣に引き込もうと綱引きを続ける2大国は薄氷を踏むような外交を展開している。
▽手応え
「上海は良い旅でした」。
4月26日、北京の釣魚台 (ちょうぎょだい) 迎賓館。
友好ムードを演出しようと努めるブリンケン氏。
対する王氏は「中国のレッドライン (越えてはならない一線) を踏んではならない」と釘 (くぎ) を刺し、溝の深さを覗かせた。
上海を訪問した国務長官は2010年のヒラリー氏以来。
バスケットボールの試合を観戦し、観光名所の外灘(バンド)を散策した。
中国偵察気球の米本土飛来などで冷え切った昨年の訪中時には考えられなかった日程だ。
米高官は「米中関係はどん底にあった1年前とは違う」と改善機運の手応えを語る。
米中は軍事対話を順次再開。
イエレン財務長官が4月上旬に訪中し、4月16日には約1年5か月ぶりに両国国防相がテレビ電話で協議した。
▽包囲網
ただ、安全保障や経済の分野での亀裂は広がる。
台湾や南シナ海情勢をめぐる米中両軍の睨 (にら) み合いは続く。
米国務省関係者は「対中関係はいかなる時も一筋縄ではいかない」と頭を抱えた。
バイデン政権は中国との対話を維持すると同時にインド太平洋の同盟・友好国との間で多層的に連携し、対中包囲網を強化。
日米韓3か国の連携に加え、4月11日にはワシントンDCで初の日米比3か国首脳会談を開催し、軍事協力の拡充で一致した。
米英豪の安全保障枠組み AUKUS (オーカス) は日本との協力検討も表明した。
日米比首脳会談があった週には英国やオーストラリア、インドの高官が相次いでワシントンを訪問。
外交筋は「対中結束を見せつけているかのようだ」と呟 (つぶや) いた。
▽脱線
「米国は中国封じ込め戦略を推し進めている」。
中国外務省高官は警戒心を露 (あら) わにした。
経済では中国による電気自動車 (EV) の過剰生産など新たな懸案が浮上し「安定軌道から脱線」 (外交筋) しつつある。
習指導部は米国の影響力排除へ欧州やアジアで外交攻勢を加速。
ロシアや北朝鮮と友好関係を維持しつつ、国際社会で影響を強める「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国を牽引する。
習氏は4月にドイツ首相を北京で歓待したほか、5月にはフランスを訪問する。
米国と足並みを揃えて中国依存を減らすデリスク政策 (リスク回避) を進める欧州の分断を狙う。
アジアでは南シナ海で対立するフィリピン以外の東南アジア諸国連合 (ASEAN) 加盟国と高官往来を活発化。
「地球は十分に大きい」から、米中は共存できる――。
4月26日にブリンケン氏と会談した習氏は、決まり文句で米国を牽 (けん) 制した。
(2024年5月16日号掲載)