揺れるFRB、遠のく目標、金利差縮まらず 利下げ年内1回、9月以降か、根強いインフレ、円安も
2024年6月13日
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会 (FRB) が年内の利下げ回数の見通しを3回から1回に引き下げた。
インフレ率が下げ渋り、物価目標の達成が遠のいているためだ。
揺れるFRBは高い政策金利を維持し、円安基調の主因である日米金利差は縮まらない。
日銀が円安是正も狙った政策調整に動くとの観測もあるが、行方は不透明だ。
▽変化する意見
「(利下げを) あまりに長く待つと経済に悪影響があるし、早すぎるとこれまでの利上げが台無しになる」。
ジェローム・パウエル議長は6月12日の記者会見で、利下げ時期をめぐる判断の難しさを吐露した。
FRBが四半期ごとに公表する経済見通しは今後の政策の指針となり、会合出席者19人の予測の中央値で占う。
昨年12月時点で今年3回の利下げを見込んでいたが、物価上昇率が一時加速したこともあり、利下げに慎重な意見が拡大。
前回3月は9人が3回の利下げを予測したが、今回は3回が消え、利下げなしが2人から4人に増えた。
今後も金利維持と利下げのどちらが増えるかは経済指標次第になる。
▽割れる見方
利下げについて見方は割れる。
米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所 (本拠地:ワシントンDC) のスタン・ボーガー上席研究員は基本路線は1回との見方を示した。
秋の大統領選に向け、景気の下支えとなる利下げを求める民主党と、利下げを避けたい共和党の意向を踏まえるとも指摘。
「政治的中立を示すために、利下げは選挙後になるだろう」とし、対応が後手に回ることを懸念した。
一方、英シンクタンク、パンテオン・マクロエコノミクス (本拠地:英国ニューカッスルアポンタイン) のチーフエコノミスト、イアン・シェパードソン氏は、物価上昇率の僅かな上方修正と比べて「利下げ回数を2回減らしたことは強引だ」と批判。
雇用環境は夏に悪化するとし、FRBが見通しより利下げを増やす方向に軌道修正を迫られるだろうと指摘した。
▽高金利続く
米国の高金利長期化で、日本経済は円安に悩まされている。
円相場は4月に一時1ドル=160円台まで下落。
日本政府、日銀は4月と5月に総額9兆7,885億円と過去最大の為替介入に踏み切った。
5月3日には一時151円台まで円が買われたが、その後は円安基調に戻っている。
高い金利水準が続く米国に対し、日本は3月にマイナス金利を解除したばかり。
市場ではFRBの利下げや日銀の利上げによって差が縮まらない限り、円安は続くとの見方が出ている。
国際通貨基金 (IMF) の関係者は「当面の円相場はFRB次第となりそうだ」との見方を示した。
▽流動性否めず
FRBは6月12日、金融政策を決める連邦公開市場委員会 (FOMC) で主要政策金利を7会合連続で5.25~5.5%に据え置くことを決めた。
年内の利下げ回数の見込みは3月時点の3回から1回に減らしたが、11月には大統領選も控え、政策決定が流動的になる可能性もある。
今後のFOMCは7月、9月、11月、12月に予定されている。
利下げは企業が融資を受けやすくなることから株価には好材料となる。
大統領選でバイデン大統領との対決が確実視されるトランプ前大統領は選挙前の利下げを「民主党を助ける」と批判しており、景気を支えるFRBの政策決定が選挙戦に影響を与えかねない。
FRBは高インフレを抑えるため、2022年3月に利上げを開始し、事実上のゼロ金利政策を解除。
6月からは4会合連続で通常の3倍となる0.75%の利上げを決めるなど、急激に金利を引き上げてきた。
最後の利上げは2023年7月で、2001年以来となる歴史的高水準の金利は1年継続することになる。
FRBが発表した経済見通しでは、2024年末の金利を5.1%と予測。
通常の利下げ幅の0.25%で1回引き下げることになる。
2025年末も4.1%と3月時点から引き上げ、2026年末は3.1%で維持した。
(2024年7月1日号掲載)